第37章 酒は詩を釣る色を釣る
時雨先生は椅子に座り直し、
「……なるほどね」
にっと笑みを浮かべた。
瞳は楽しそうに弧を描き、両の口端は上向きに緩む。
邪悪さすら感じる時雨先生の笑顔に、わたしは引き攣った表情で応える。
眼前でぱちんと両手を合わせ、時雨先生を拝む。
「頼めるのは時雨先生しかいないんですよ」
「…………」
時雨先生は感情の読めない仏頂面で考え込んでいる。
わたしはダメ押しと言わんばかりに、上目遣いで時雨先生を見る。
「お願いしますっ」
「…………」
時雨先生は前のめりにわたしを見つめ返した。
「へぇ……なんで?」
「えっ」
時雨先生は前傾の姿勢を取ったまま、無遠慮にわたしに視線を注いでいる。
「うぇ……っ、え、こういうことに理解がありそうだから……?」
時雨先生は浅く頷き、わたしに向かって手を伸ばした。
「何?職業倫理が無さそう?」
わたしは勢いよく身体を逸らす。
「言ってないですよそこまではっ!」
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