第36章 子の心親知らず
何と声をかければ良いのだろう、とわたしは頭を悩ませ、
「……わたしで良かったら、甘えてみますか?」
「え……」
「サヘルくんが良ければ、わたしを今だけお母さんだと思ってみる、とか。わたしに出来ることなんて、あんまりないですし」
わたしはこの瞬間だけでも癒せたら、と、自虐的に笑う。
「も、勿論サヘルくんが嫌なら無理強いはしませんけど……」
サヘルくんは椅子を揺らして立ち上がり、
「嫌なんてこと、有り得ませんっ!ボクは、紗都せんせいが良いなら……!」
頬を赤らめる。
「……ま……」
もじもじと躊躇いがちに口を開いた。
「ママ……って、呼んでもいいですか……?」
消え失せそうな声で言われ、ぎゅっと胸が締め付けられる。
顔全体を薄く染め、大きな瞳で上目遣いに見つめられると黄色い声すら出そうになる。
衝動を抑え、立ち上がった。