第36章 子の心親知らず
「ありがとうございます、ボクの家兄弟が多くて、ボクは一番上で……みんなまだ小さいから、ボクが母親がわりみたいな……」
わたしは黙って耳を傾ける。
サヘルくんは一つ一つの言葉に迷うように、声を落として話し続けた。
「全然、それに不満がある訳じゃないんですけど……ボクのことを母みたいに慕う兄弟たちを見てると、ほんとの母に対して色々な事を思うんです」
「…………」
「ボクが母に甘えた記憶なんてなくて、もう甘えたくもないんですけど」
サヘルくんはキッパリと言い、口を噤む。
長い睫毛がゆっくりと下向きになり、目元に影を落とした。
「……それなのに……たまに、やるせなくなるんです……」
わたしもサヘルくんに引きずられるようにして、口を閉じていた。