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男子校の女王様。

第2章 窮鼠猫を噛む


「こんちはー」

どうしたものかなあ、と黄昏ていると、明るい声と共に扉が開いた。

慌てて身を起こすと、

「紗都せんせー、初めましてオレ神崎永夢」

そこには、冴舞学園の自由な校風の代名詞のような男の子が屈託なく笑っていた。

「よろしくねー」

着崩した制服に、金髪、ピアス。

わたしは一瞥したあと、体勢を整え、永夢くんに向き直った。

「初めまして……今日はどうしたの?」

「ねーねー、挾間せんせーは?」

わたしはその問いかけに答えにつまる。

わたわたと弁明する。

「え、えっとごめんなさい、挾間先生は今席を外されてて」

永夢くんはきょとんとした顔からみるみるうちに笑顔に変わった。

「やった、ラッキー!」

大きくガッツポーズをし、

「へ?」

手馴れた様子でベッドのカーテンを開き、寝転がった。

「てゆーかどーせタバコでしょー、挾間ちんは」

今にもカーテンを閉めようとする永夢くんを慌てて止める。

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「昨日オールしちゃってさあ、めっちゃ眠いんだよねー……」

既に布団にくるまった永夢くんは眠たげにわたしを見つめる。

わたしはその上目遣いを弾き飛ばすように、頬を膨らませた。

「こーらっ、ここは仮眠室じゃありませんよ」

「寝不足で吐きそうなんだよ〜、ねっ?お願い!お願い紗都せんせー」

絶対嘘でしょ、とも言いきれないのが教職の辛いところだ。

わたしはしぶしぶ引き下がった。

「……30分経ったら、起こしますからね」

わたしの言葉に、永夢くんは嬉しそうににぱっと笑った。

「はーい」

「もう」

生徒から先生、と呼ばれると、笑顔を向けられると、可愛らしくて困る。

わたしはすごすごとデスクに引き上げ、前任者の引き継ぎの仕事を始めた。

校内の水質検査のまとめだとか、現在不登校気味の子についてのクラス担任から問い合わせに応えたり。

「あ、そうだ保健室便り……」

やることは山ほどある。

養護教諭なんて、案外デスクワークが多くて地味だなあ……。

そんなことをしていると、あっという間に時間が経っていた。
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