第1章 鬼が出るか蛇が出るか
保健室の前に、わたしと時雨先生だけが取り残された。
「あ、あの、養護教諭の丸木戸紗都です!これからよろしくお願いします、不慣れなものでご迷惑をおかけするかもしれませんが」
話の途中で、時雨先生が大きく咳払いをした。
わたしが顔を上げると、時雨先生は不機嫌そうに片足をパタパタと踏み鳴らしていた。
呆然とするわたしに、時雨先生は
「はい、んじゃ、あとはよろしく、俺は少し出るんで……」
早口で話を終えさせ、外に向かって歩き出した。
「え、ちょっと、あの!」
あっという間に外へ出ていってしまった時雨先生。
なんだあの人、お医者さんなのに、ましてや学校で働く保健医なのに煙草?
静かに憤っていたが、ふるふると頭を振り考えをかき消す。
モヤモヤが残りつつも、仕方がない。
一人で保健室に入る。
流石というべきか、当たり前と言うべきか。
そんじょそこらの保健室とは格が違う。
ベッドなどの充実は勿論、医療器具も豊富にある。
仕事用のデスクも高機能だし、ソファーやスクリーンまで完備され、居心地にも長けている。
しかし、相方の保健医がタバコを吸いに出ていかれひとりぼっち。
ハッキリ言って、素敵な保健室よりも素敵な同僚の方が欲しかった。
絶対歓迎されてない……。
あの人とずっと一緒に仕事か……。
「きっ、つう……」
わたしは小さくボヤいた。