第36章 子の心親知らず
サヘルくんは慌てた様子で子供の手を引く。
「こらっ、こんばんはでしょ。あと、指指さないの」
サヘルくんのお兄ちゃんらしい姿に目を細める。
「みんなでお買い物ですか?」
「はい……その、学校が終わって、弟たちを迎えに行って、そのまま来たんです。家に残しておくのは心配だし、時間もないし」
わたしは感嘆の声を上げる。
「そうなんですね……!偉いですね、サヘルくん」
サヘルくんはぽっと頬を赤らめ、俯いて首を左右に振る。
「い、いえそんなっ、ボクは……ただ、歳が一番上だからってだけで……親も頼れない、し……」
表情を僅かに曇らせ、困ったように笑った。
わたしは首を横に振って否定する。
「それでも偉いですよ、なかなか出来ることじゃないです」
「そんな、ボクは……っ」
その時サヘルくんの目線が下に行く。
小さな女の子が暇そうにサヘルくんの腕を引っ張っていた。
わたしはぷっと吹き出す。
「ごめんなさい、お買い物中に引き止めちゃって。また明日」
「い、いえ、こちらこそ……それじゃあ、失礼します」
ばいばい、とサヘルくんたちに手を振って歩き出す。
サヘルくんの陰った表情と声を思い出すと、知らず知らずのうちに口を固く引き結んでいた。
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