第35章 商人の嘘は神もお許し
時雨先生からは当たり前に毒づかれるも、わたしは表情を緩めたまま呟く。
「冴舞が男子校で良かったなあ……って、わたし、初めて思ったかもしれません……」
「何寝ぼけたこと言ってんだよ……顔でも洗ってくるか?」
「可愛くないこと言ってるけど、オレが来た途端慌てて起こしたんだよ」
ふと隣からした声に横を見ると、永夢くんがじっとわたしを見ていた。
おはよ、と笑顔を向けられ、わたしもはにかんで挨拶を返す。
永夢くんは破顔したまま楽しそうに話し続ける。
「時雨ちんったらそれまでぼーっと紗都せんせーの寝顔見ててさあ、オレが来た時の慌てようが半端じゃなくて」
時雨先生が永夢くんを睨む。
「永夢……」
「あー怖い怖い、オレもちょっとだけ紗都せんせーの寝顔見れたしもう帰ろっかな〜」
「…………」
「あ、そうだ!紗都せんせーは仕事何時まで?オレ残るから一緒に帰ろ、送ってくよ」
「うるっせーよガキはとっとと帰れよ……!」
わたしは夢で見たように言い合う二人を見て、実際どっちでも変わらないのかも、と思い始めていた。