第6章 魚心あれば水心
サヘル、と呼ばれた彼は気まずそうに目を伏せる。
「そもそも男子校だろうが……」
「い、いやッ!分かってますよ!だから、その、いつのまにやら共学になったのかなって」
「……馬鹿」
わたしは慌ててサヘルくんの方に向き直る。
「ごっごめんね!悪気はなくて、や、いや悪気がなくても嫌な気持ちになったならわたしが悪いの、ごめんなさい!」
「いっ、いえいえ!全然、大丈夫です」
サヘルくんはニコッと笑顔を浮かべる。
罪悪感が胸を締め付けた。
「うわぁ……時雨、先生ぃ……」
「……そんな顔されても俺には関係ねえだろうが」
時雨先生は軽く頭を掻き、フラりと方向転換した。
保健室のデスクに向かってフラフラと歩き出し、サヘルくんの方を見る。
「サヘル、どうする?ベッドも空いてるけど」
サヘルくんも続くように保健室に入る。
その慣れた様子に小首を捻った。
「えっと、椅子に座ってます、勉強とかしたいので」
サヘルくんは学生鞄を掲げて微笑む。
時雨先生はぶっきらぼうに頷いた。
「……そ。好きにしといて」
わたしは時雨先生の腕を掴み、引っ張った。
「お、おい、なんだよ……」
声を潜めて話しかける。
「あの、時雨先生とサヘルくんは知り合いなんですか?なんか慣れた感じしますよね」
「ああうん、まあ、一応……」