第6章 魚心あれば水心
トントン、と遠慮がちな音がした。
そのあまりにも控えめな音に、保健室のドアがノックされたと気がついたのは数秒後だった。
わたしと時雨先生は顔を見合わせる。
お前が行け、と目配せする時雨先生。
わたしは分かってますよ、と口を尖らせ歩き出す。
笑顔でドアを開ける。
「はーい」
「あ、あの……」
そこには可愛らしい生徒が立っていた。
低めの身長、華奢な体躯。
少しダボッとした大きめな制服が、その可憐な印象に拍車をかける。
柔らかく癖のない髪が伸び、片目を覆い隠している。
覗いた片目はこちらを遠慮がちに見つめる。
その大きな瞳を縁取る長めの睫毛。
わたしは目を瞬かせ、目の前の子をじっと見つめる。
冴舞学園はいつから共学になったの……?
「……何二人して固まってんだ」
呆れ顔の時雨先生がやってきて、わたし達にため息をつく。
わたしはパクパクと口を動かし、身振り手振りをする。
「……あぁ?」
怪訝そうな顔をしていた時雨先生はわたしと生徒をちらりと見比べる。
「サヘルは男だぞ」
「ええッ!?」
わたしは思わず大きな声を出してしまった。