第35章 商人の嘘は神もお許し
「へへ、実は可愛いな〜って思って声かけちゃった。ね、今から暇?」
うわっとわたしは顔を顰める。
やっぱりナンパか、と背を向ける。
「暇じゃないですし、暇だとしても見ず知らずの人に付き合う時間は無いです」
「うわ、きっつ!でも君面白いね〜」
彼は全くめげる様子がない。
反対方向を見るわたしに向かって身体を向け、
「面白いし、可愛い!」
明るく喋り続ける。
「あと優しいよね、ふつーに無視しても良かったのに話してくれるし。道も教えてくれるし?」
遂にわたしも相好を崩した。
足を止めて彼を見る。
「道は……教えてない、ですよ」
彼も肩を揺らして笑い、わたしに小首を傾ける。