第34章 金を掴む者は人を見ず
「じゃ、お疲れ……」
「お疲れ様です」
時雨先生を見送り、昼食のお弁当を取り出す。
いただきます、と手を合わせてからなんとはなしに呟いた。
「良いなあ、午後から半休なんて」
ご飯を口に運びながら、
「時雨先生って出張も多いし、休みもちゃんと取るし……」
背もたれに体重をかける。
「一人になること多いんだよね」
そのせいと言うか、おかげと言うか。
保健室での行為に歯止めが利かない理由の一つだ。
「時雨先生って家で何してるんだろ?今度聞いてみようかなあ……」
独り言を洩らしながら、食べ進める。
「……ご馳走様でした」
昼休みが終わるチャイムとほとんど同時に食べ終えた。
なんとはなしに廊下に目をやると、聖くんが歩いて来るのが見えた。
にこっと微笑んで手を振ると、ぶっきらぼうに手を振り返してきた。
思わず保健室のドアを開け、
「おはようございます、聖くん」
声をかける。
聖くんは辺りを軽く見回し、笑みを作る。
「ん……おはよう、紗都先生」
その笑顔はなんとなく覇気がないというか、いつもと違い疲れているように感じる。
その上、聖くんは通学カバンを持ったままで、まるでたった今登校してきたようだ。