第33章 水に燃え立つ蛍
「ね〜紗都せんせー、オレすっごい我慢強くなったよね」
「そう……ですね、斗真先生からも、評判を聞いてます、最近ずっと永夢くんが頑張ってるって」
えへへ、と破顔する永夢くんと対照的にわたしの顔は曇る。
いつも以上に眉間に皺を寄せている時雨先生が視界の端に入る。
永夢くんが連日保健室に来ることについて釘を刺されたことを思い返す。
『……保健室は喫茶店じゃねえからな』
『え?』
『時雨、用もねえのに……つーか、丸木戸に会うためだけに保健室にだべりに来てんだろ……』
『まっ、まあそれは否定しませんけど……。わたしはその、保健室へのハードルはできるだけ低い方が良いと思ってて、愚痴とかお悩み相談とかも、生徒のメンタルヘルスに大事かと……』
『ここはただでさえ本来の使用目的から外れた行為が多いんだから、大概にしとけよ』
『時雨先生には言われたくないんですけど!』
わたしを慕う永夢くんの様子をそっと窺う。
「紗都せんせーのおかげだよね」
懐っこく目を細めている。
「……保健室に来るのを我慢するとかは」
「あ、それは無理」
わたしの提案をキッパリと一蹴する永夢くん。
「だってオレ紗都せんせーに会いたいから学校来てるし〜、実際他のことどうでもいいもん」
ぴくっとこめかみを脈打たせる時雨先生が見え、わたしの額を冷たいものが流れ落ちた。