第32章 妬みはその身の仇
「……眠いんですか?」
「ん、ああ……悪ぃ」
申し訳なさそうに頭を低くする時雨先生に、わたしはほほ笑んで首を横に振った。
「大丈夫ですよ、わたし以外いませんし。なんなら、ベッドもあるし仮眠でもしたらどうですか?」
「……いや、それは……」
時雨先生はふるふると頭を振り、
「まだ、生徒来るかもだし……もうすぐ、終業、だ、し……」
飲みかけのコーヒーを眠気覚ましのように口に含んだ。
時雨先生は、時間がたち温くなったそれを喉に落としていく。
わたしは時雨先生が全て飲み干したのを見届け、
「無理はしないでくださいね」
にこっと笑った。
✱
時雨先生の目つきは徐々に虚ろになり、舟をこぐ回数が増えていく。
力が抜け、ず、と椅子からずり落ちそうになる度に重そうに首を振る。
わたしはそんな様子を盗み見、時雨先生が眠りに落ちるのを静かに待つ。
暫くしてから、時雨先生にそっと声をかけた。
「……時雨先生?」
返事はない。
時雨先生の様子を窺うと、どうやら完全に眠っているようだ。
微かな呼吸音、深く閉じた両眼。
わたしは自分の席から腰を上げ、保健室のドアを施錠した。