第32章 妬みはその身の仇
「そ、そうなんですね」
わたしの返事に、時雨先生は安心した様に息を衝く。
目線を上向きに投げ、どうでもよさそうに呟いた。
「そうだよ……斗真は心底どうでもいい……」
わたしはにこにこと同調の笑みを作り、
「じゃあなんで怒ってるんですか」
「怒ってない」
「…………」
最初に戻っちゃった、と思わず口を噤む。
堂々巡りの会話に溜息を吐いたのとほとんど同時に、時雨先生が欠伸をした。
時雨先生を見ると、鋭い目付きを眠そうに緩ませている。
睡魔に襲われているのか眉間に皺をよせ、それを払うためかこきこきと首を捻った。
時雨先生には珍しい仕草に心臓が脈を打つ。
続けて、それとなく時計に目線を移行させる。
……確かに、そろそろいい頃合いだ。
動揺を悟られないように、時雨先生に優しく話しかけた。