第31章 猫に鰹節
「は、はい」
「それはほんとおれの野暮用なんですけど、そんで、その、なんて言うかアクシデント?トラブル?があって、いやっ、単純に飲み物を零しちゃって!服に!全部に!」
話の内容よりもあまりに必死な様子に気圧されていると、斗真先生は自身の手にしていたジャージをわたしに突き出した。
「ほっ、ほら!これ!ジャージ!ちゃんとこれに着替えようと思って!思ってたんですよ!」
「わ……分かりました」
「それであの!これ、おれの履いてるの、ジョックストラップって言って、一応スポーツ用のサポーターでっ……でも、み、見た目はちょっと目立つじゃないすか」
斗真先生が顔を赤く染め、気まずそうに俯いた。
下腹を手で覆い隠すようにしながら、
「時雨がいないのは、その……いくら男同士で時雨とは言えどもさすがにこれを見られるのは恥ずかし……いというか……」
声を尻すぼませる。
斗真先生は言葉を飲み込んで、痴れたように目を伏せた。
わたしは黙って斗真先生を見つめる。
恥ずかしそうに赤らんだ顔、よく鍛えられた筋肉質な身体。
それらを引き立てるジョックストラップ。
身体の端々がじわじわと火照ってくる。
わたしはこく、と喉を震わせた。