第31章 猫に鰹節
『やべえ、やっちまった……』
時雨は煙草とライターから手を離し、おれに目線を戻す。
『悪ぃ、大丈夫か』
おれは首を左右し、苦笑いする。
『あー、いい!おれが悪い、時雨、タオルある?』
『ん』
『サンキュ』
時雨に手渡されたタオルで濡れた服を拭く。
時雨はそんなおれの様子を眺める。
『……お前着替え持ってんの?ないなら貸すけど』
おれは時雨の問いかけに固まる。
確かにこの状態だと、着替えるのは必須だろう。
おれは時雨に見えるようにスポーツバッグを持ち上げる。
『い、いや、おれも替えのジャージ持ってるから大丈夫だけど……』
『そうか』
『ああ……』
時雨は黙って椅子に座っている。
おれは時雨に話しかけた。
『あ、そのっ、じゃあ時雨、出てってくれるか……』
『……は?』
『……着替えるから……』
『…………』
時雨の表情が不快そうに大きく歪んだ。