第5章 逢うは別れの始め
「いや、あのッ……」
斗真先生は言葉に迷いながら、後ずさり
「えっ、とおおおおお!」
そのまま真後ろにぶっ倒れた。
激しい音を立て、倉庫の荷物に突っ込む斗真先生。
「わあッ!?だ、大丈夫ですか!」
わたしは慌てて駆け寄る。
見ると、斗真先生はマットの上に倒れ込んでいた。
顔を腕で覆い隠している。
「おれ、分かんないんすよぉ……」
ぼそりと呟いた声はしっとりと濡れている。
もしかして泣いて、る?
わたしはじっと斗真先生を見守る。
斗真先生は肩を震わせながら言葉を続ける。
「丸木戸、先生、今はこんなに優しくて可愛いのにぃ……今さっきすっげえ怖かったしい……!おれ、なんか、いいなって!思ってたのに!」
ぐすぐすと啜り上げる斗真先生。
いじらしくて、困ってしまう。
わたしはぽつりと吐露した。
「全部、わたしですよ。斗真先生の見ている部分も、見ていない部分も」
斗真先生が顔を上げる。
「少なくともここに来るまではこんなにサディストじゃなかったかもしれないですけど」
わたしは困り顔で笑い、斗真先生の前に置かれた跳び箱にお尻を置いた。
「今はこれで良かったかも、なんて思ってるんです」
斗真先生は驚いたような顔でわたしを見つめている。
「人を虐めるのって、めっちゃくちゃに……気持ちいいんです」
口端を舐め、目を細める。
「ああ、斗真先生に何かしろだとか、何かしないでだとか、わたし言いません」
話すうちに吹っ切れていた。
わたしが時雨先生を嬲ったのは、交換条件と嫌々に、じゃない。
わたしは男の人をいたぶって興奮するんだ……。
「わたしを庇ってくれる人もいるみたいです、けど……えっと、彼には悪いんですが覚悟は出来てます。時雨先生とのことも事実です。煮るなり焼くなり斗真先生の好きなようにして下さい」
軽く頭を下げた。