第31章 猫に鰹節
『つーか、お前そもそも今日出勤だっけ』
『い、や……まあ、仕事溜まってたから』
『ふーん……あっそう……』
『うん……』
おれは次の言葉に迷い、俯きがちに目を下げる。
『…………』
時雨はそんなおれに目線で催促し、面倒くさそうに顎をしゃくった。
『……で?』
おれは跳ねるように顔を上げる。
普段は全く気にならない時雨の仕草にも過剰に反応してしまう。
慌てて話を切り出す。
『あっ!わ、悪い、っと、本題、なんだけど、その……』
ふうっと息を吸い、吐き出すように言葉を紡ぐ。
『最近、っていうかちょっと前から気になる人、女の人がいて……』
話慣れない内容に顔は赤くなり、目が泳ぐ。
時雨の眉間に一瞬皺が刻まれ、
『……へえ』
すぐに執り成すように表情を戻す。
おれはこくんと頷き、言葉を続ける。