第29章 藪をつついて蛇を出す
わたしはポンと膝を打ち、腰を上げた。
「そうだ、時雨先生呼んできましょうか?」
「ふえッ!?」
大きく身動ぎするサヘルくん。
わたしは眉を八の字にして微笑する。
「勿論わたしは席を外しますし……」
「い、いえ、あの、そうじゃ、なくてっそんな!全然大事な事じゃなくてっ」
サヘルくんは目を白黒させ、わたしを上目遣いに見つめた。
「な……内緒にしてくれますか?」
大きめの瞳がしとって、恥ずかしそうに頬を赤らめたサヘルくんに、
「はっ、はいッ」
わたしの頬まで熱くなっていた。
✱
俺は悠々と煙草を吸い終え、ゆるっとドアに手をかけた。
「うええッ!?」
その時、丸木戸の馬鹿でけえ声が聞こえてきた。
反射的に手を止めた。
立ち止まったまま耳を澄ます。
「違うんです!違うんですお願いですからサヘルくんそんな絶望しきった目でわたしを見ないで下さい!」
丸木戸のテンパった釈明が続く。
「ちょっと、予想外な方向からのお悩みでしたから……」
何の話してんだ?
サヘルの悩み相談?
俺は眉を顰める。
……入るタイミング逃した。
「わたしは女ですから、完全には理解出来ませんけど……男性にとっては深刻な問題だということは分かります」
丸木戸がゆっくりと諭し、
「はい……」
サヘルは弱々しく相槌を打つ。