第27章 寝耳に水
帰りがけに学園長室の前を通りかかった時、
「失礼します」
ぴしりとした礼儀正しい挨拶と共に部屋を出てきた生徒。
わたしは凛とした立ち姿の彼の名前を呼ぶ。
「聖くん」
「ああ、丸木戸先生か」
わたしはニコッと頷き、聖くんの隣に並ぶ。
「差し支えなければですけど、なんのお話してたんですか?」
「進路についての話」
「へえ……」
聖くんの顔を見ると、嫌そうに嗤っていた。
「公私混同も大概にしろよって感じ、同じ家に住んでるのにな……建前がないと僕と喋れないんじゃないか」
親御さんにも相変わらずだなあ、とわたしは苦笑いする。
「深読みし過ぎじゃないですか?確かにそう思えるのも分かりますけど……」
聖くんはわたしの言葉に軽く噴き出す。
「学園の体裁を保つのに必死な親からの進路の相談なんて簡単に先が読めるよ」
「…………」
聖くんは目を細め、口角を上げる。
「まあ、いくら学園内の不祥事には目をつぶってるって言えども驚くだろうな……ご自慢の息子が養護教諭に性的な写真を撮られて脅されてるって知ったら」
「へ……」
わたしはぴきっと固まる。
それに気がついた聖くんはわたしの顔を覗き込むように、ぐっと距離を狭める。
考えを見透かすような真っ直ぐな視線。
整った真っ直ぐな鼻梁が鼻先に触れそうな程に近い。
わたしは思わず頬を赤くして後ずさる。