第26章 三十六計逃げるに如かず
「やだぁ……なんでなんすかぁあ……っ」
「えっ、えっ!」
「おれっ……まだ帰りたくない」
そのまま男泣きする斗真先生。
まさかの泣き上戸、とわたしは眉間に皺を寄せる。
「もう、そんなこと言って……大人しくお家帰りましょうよ」
斗真先生はやだやだ、と首を横にふるふると振る。
わたしは、面倒くさいなあ……と項垂れた。
わたしの為にこうなってしまった手前無下にも出来ないし。
携帯電話に表示された時刻はかなり良い頃合だし、無論周囲も真っ暗だ。
斗真先生の酔いが覚めるまで……。
「じゃあ、わたしの家まで来ますか」
「いっ、いやっ!それはッ!」
斗真先生は激しく顔を染め、飛びずさった。
「独身の女性の部屋に男が行くなんて……っ」
わたしは黙って斗真先生を見つめ、
「あっ!」
無理矢理手を取った。
「なんでそこは理性が残ってるんですか、行きますよ」
「い、いや、あっの、そのっ!」
ヘロヘロの斗真先生を自宅まで引っ張り込んだ。
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