第26章 三十六計逃げるに如かず
「斗真先生?斗真先生ー……」
呼びかけながら、斗真先生の赤らんだ頬をぺちぺちと叩く。
強いお酒の匂いがする。
微睡んだ目が半分開き、
「あ、丸木戸先生だぁ……へへ……」
斗真先生は嬉しそうにへにゃへにゃと笑う。
明らかに酔っ払っている。
✱
──わたしは冴舞学園の職員飲み会に参加していた。
駆けつけ一杯から始まり、
『ほら、丸木戸先生飲んでる〜?』
『次何飲む?』
『は、はい……』
『グラス空いてるけど大丈夫?』
『え、ぁ……』
お酒がどんどん回ってくる。
段々酔いが回ってきて、ひくっと喉をしゃくった。
ヤバいなあ……とぼんやり考えていると、
『……丸木戸先生無理に飲まないでいいっすよ、おれに貸してください』
隣からいつもより低い声がした。
隣に座った斗真先生は不機嫌そうな顔で他の先生達を見ている。
わたしは斗真先生にそっとグラスを渡した。
それからもわたしに回ってくるお酒を半ば奪い取るようにして、斗真先生が次々と飲み干していく。
多分、かなりの量が回ってきたはずだ。
飲み会が終わる頃には目の前には大量のジョッキとグラスが連なっていた。
しかも、全て空の状態で。
これで酔うなという方が無理がある。
……斗真先生はベロベロに酔っ払っていった。