第23章 酒は詩を釣る針
わたしは思いっ切り眉根を寄せる。
目の前の時雨先生はお酒の匂いと周りの雰囲気に絆されたのか、ほんのりと頬を赤くしている。
仕事帰りの三人で居酒屋に来て、程よく盛り上がったかと思えば。
……一体全体何の話なんだ。
時雨先生を軽く睨む。
周りの人達に気を使って、
「……何を言い出すかと思えば、寝盗られ趣味でもあるんですか……」
時雨先生は気にすることなく続ける。
「俺はアイツらの性癖知ってるけど、アイツらは知らねえわけだし……こういうこともあんのかなーって」
わたしが絶句していると、
「実際丸木戸なら出来るよな……」
時雨先生が真面目な顔で言うものだから、激しく噎せた。
わたしは言い返す。
「でっ!出来る出来ない、したいしたくないじゃなくてですねこれは貞操観念や倫理観の」
「二人で何話してんすかっ」
「うっわあ!」
見ると、トイレで席を外していた斗真先生が戻ってきていた。
酔いが回り、いつも以上に朗らかな斗真先生。
楽しげに時雨先生にじゃれつく。
「なあ時雨、丸木戸先生と何話してたんだよぉ、おれにも教えろって」
時雨先生は心底うっとおしそうに顔を歪める。
ボソッと呟いた。
「……猥談」
斗真先生の顔が真っ赤になる。
「なッ!おっ!おまッ……!」
「ちょっとお!!」
……三人の夜は更けていく。