第4章 毒を食らわば皿まで
わたしは狼狽えた。
「そんなこと、言われても……わたし、なにをしたらいいんですか」
「何をしたらいいですか、じゃねえよ」
時雨先生の手に力が込もる。
絡んだ指が締め付けられる。
「お前、何してみたい……?」
わたしは時雨先生の手を振り払った。
時雨先生の目が泳ぎ、下唇をきゅっと噛んだ。
そんな不安げな顔が可愛くて、わたしは恐る恐る時雨先生の背中に手を回す。
時雨先生は黙ってわたしに抱きしめられている。
白衣に染み付いた煙草の臭い、無造作な髪。
時雨先生だなあ、とか呑気に思いながら丸まった背中を片手でぽんぽんと撫でた。
もう片手はあるものを探す。
薬箱を探し当て、蓋を開いた。
時雨先生は不貞腐れたように呟く。
「……んだよ……こんなことがしたいのかよ……」
わたしは広い胸に自分の身体を預けるようにして、
「期待はずれですか?」
上目遣いに時雨先生を見る。
「まあ、なっ……!?」
時雨先生のいつもの無表情が崩れる。
わたしは口に包帯の先を噛んだまま微笑んだ。