第22章 亭主の好きな赤烏帽子
わたしはサヘルくんの顔を注視する。
「えっ、あ……っ」
サヘルくんの焦ったような表情が歪み、
「ごっ、ごめんなさい大きな声出して……えっと、あの、家に、帰るほどじゃないですから……そのっ……」
声は申し訳なさそうに尻すぼんでいく。
わたしはサヘルくんに微笑みかけた。
「……分かりました、ゆっくり休んでくださいね」
ベッドを囲むように降りたカーテンを引き、サヘルくんに指し示す。
「あ……う……はい……」
サヘルくんはぺこっと頭を下げ、ベッドに横たわった。
シーツに包まるのを見届け、わたしもデスクに戻る。
「……紗都せんせい」
ベッドの方を振り向くと、
「ん、どうしました?」
サヘルくんはシーツで口元を隠すようにして、ふにゃっと笑った。
「ごめんなさい、何にも……」
「そうですか……?」
キョトンとするわたしを後目に、サヘルくんは安心したように目を伏せた。