第20章 悪事千里を走る
「……時雨先生、わたしの白衣においたしましたよね?」
時雨先生の肩が跳ねる。
普段の怠そうな眼が大きく見開かれた。
わたしはその反応に眉根を寄せる。
「わたし、昨日保健室に白衣を忘れたのに気がついて取りに帰ったんですよ。そしたら鍵が閉まってて……それなのに電気は付いてる」
わたしは昨日のことを思い出しながら、
「防音壁で中の音は聞こえないし、カーテンで何も見えなかったんですけど」
呆然とする時雨先生をじとっとした目付きで見る。
「わたしも鍵持ってますからね……?」
わたしは呆れ顔に変わる。
「何があったのか心配で、音を立てないように、ゆっくり少しだけ開けたら……随分夢中でしたね」
訥々と喋っていると、背後の生徒達の声が耳に入った。
こんな姿を見られると不味い。
わたしは壁からそっと手を離す。
「放課後、楽しみにしておいてくださいね」
そっとささめいた。
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