第20章 悪事千里を走る
わたしの前方を歩く猫背の男性。
気だるげに背を丸め、ぺたぺたと足を踏み出す白衣の後ろ姿。
わたしは後ろから早足に追いかけ、
「……時雨先生っ!」
「え」
振り向いた時雨先生。
時雨先生が背にしていた壁に向かって勢いよく手をついた。
「うッ……!」
ドン、と音がする。
わたしは時雨先生の背後の壁に腕を伸ばして進行方向を塞ぎ、立ちはだかった。
上目に時雨先生を睨む。
時雨先生の僅かに開いた瞳がわたしを捉える。
わたしと認識したのか、瞳はゆっくりと細まる。
訝しげにわたしを見つめ返した。
「びっくりした……何だよ……」
「それはこっちの台詞ですよ!」
わたしは思わず声を張る。
尚も怪訝な表情の時雨先生に、ため息をついた。