第19章 奇貨居くべし
仕事を終えて、帰り支度をする丸木戸が俺の方を見た。
『時雨先生、まだ帰らないんですか?』
俺はブルーライトカットのレンズ越しにパソコンを睨む。
律儀に返事を待つ丸木戸に目をやり、ぶっきらぼうに答えた。
『ん……まだ残ってる』
『そうですか。じゃあ、お先に失礼しますね。お疲れ様でした』
……そんな会話をして、俺と丸木戸は別れた。
画面から目を離し、背もたれにゆっくりと体重を掛けた。
眼鏡を外して目頭を揉み、長い息を吐く。
一服してくるかな、と目線を遊ばせると丸木戸のデスクに目が止まった。
その中で目についたのは椅子に掛けっぱなしの白衣。
ロッカーに入れる訳でもなく、珍しく放置されている。