第1章 鬼が出るか蛇が出るか
✱
「それじゃあ、行きましょうか」
わたしに笑いかける男性。
わたしは頷き、彼と一緒に歩き始めた。
横目で彼の姿を窺う。
高い身長に筋肉質な身体、短めの髪。
彼は保健室までの案内を申し出てくれた、体育教師の坂見斗真先生だ。
爽やか笑顔に明るい語り口まで兼ね備えている。
これが共学なら、あるいは女子校なら、物凄いことになっているんだろう……。
いや、男子校でも憧れの的なのかも。
邪な妄想をしつつ、わたしは適当な話を切り出した。
「それにしても、凄く立派な学校ですよね!」
「そうですねー自分もまあまあ教師生活長いんですけど、ここまではないすよねえ」
「常勤の保健医さんまでいるんですよね!ほんと、わたしみたいなペーペーが赴任できるなんて不思議です」
わたしが呑気に笑っている横で、斗真先生の表情が曇った。
「……そう、っすね」
保健室にたどり着く。
「それじゃあ、行ってきますね。ありがとうございました」
「いやいや!気にしないで下さい!」
わたしは軽く頭を下げ、斗真先生に背を向けた。
「……っ、あの、丸木戸先」
斗真先生が何かを言いかけたその時、保健室のドアが開いた。