第1章 鬼が出るか蛇が出るか
「みなさん初めまして!養護教諭の丸木戸紗都です、冴舞学園のみなさんよろしくお願いします!わたしが普段保健室にいるのであんまり会う機会がないかな、と思われるかもしれないんですけど……怪我や病気の時だけでなく悩み事の相談とか、雑談とか、気軽に来て欲しいです。保健室で待ってますね」
わたしは新任の挨拶を終え、頭を下げた。
広々とした講堂に、割れんばかりの拍手と歓声が響き渡る。
顔を上げて、これから共に過ごす生徒達を見つめる。
思いっ切り拍手をする男子、隣の男子とひそひそ話をする男子、笑っている男子、男子、男子……。
というか、ここには男子生徒しかいない。
そう、わたし新任養護教諭の紗都は男子校の冴舞学園に赴任したのだ。
新任にも関わらず男子校という未知の世界に飛び込むことに多少の不安はあるものの、きっと大丈夫だろう。
わたしは決意を新たにし、意気込む。
……でも、なにも教師まで男性しかいないのはどうなんだろう。
わたしは男性教師陣を眺め、苦笑する。
紅一点、なんちゃって。
でも、わたしの前任の養護教諭も女性だったはずだ。
確か、その女性は赴任してすぐに辞められたんだっけ。
それに、この学校に赴任してきた女性教師はみんなすぐに辞めているらしい。
わたしは内心首を傾げる気持ちだった。
冴舞学園は日本で有数のお嬢様学、いや、お坊ちゃま学校なのだ。
だだっ広い敷地、華美な学舎、豪華な施設。
優れた才能を持つ学生達。
エリートの教師陣。
どうしてこんなに良い待遇の職場をすぐに離れるのだろうか。
それも、どうして女性教師だけが……?
わたしの懸念を他所に鳴り続ける長い拍手は未だに鳴り止まない──。