第18章 隴を得て蜀を望む
「ただいま」
僕は極めて柔らかい口調で、胡散臭い程の微笑と共に玄関のドアを開けた。
態と遅く靴を脱いで、ハウスキーパーが来るのを待つ。
無駄にだだっ広い家だから、ここまで迎えに来るのも大変だろう。
彼は早足に飛んできて、
「お帰りなさい、聖君。今日もお疲れ様でした」
僕に向かっていつものように恭しく頭を下げた。
僕は優しく微笑んで、
「うん、ありがとう」
彼に鞄を手渡す。
自分の部屋まで彼を後ろに引き連れ、歩き出す。
「今日は早いんですね、最近は帰りが遅いことが多かったので……心配していましたよ」
僕の肩がぴくっと揺れる。
平静を装って、
「……うん、まあ。たまに友達に勉強を教えたりしてて」
静かに返答する。
……嘘、じゃない、多分ほんの少しは。
彼は僕の言葉を疑うことなく、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「流石ですね、本当に優しくて。その調子で今日のお勉強も頑張ってください」
「はい、勿論。じゃあ……」