第17章 風が吹けば桶屋が儲かる
「……で?何、それ」
時雨先生は露骨に嫌そうな顔で、わたしの手にしたプレゼントの山を見る。
わたしは泣き声をあげた。
「あの、わたしが時雨先生へのプレゼントを受け取っちゃったじゃないですか?あの、わたしの前任の先生達はそういうのは一切取り次がないようにしていたらしくて……」
──プレゼントを受け取り渡してくれる、わたしという存在は冴舞学園に焦がれる女子たちにとって便利屋そのものだったらしい。
『すみません!これ、斗真先生へ渡してください!』
『会長にお願いしますっ!』
『……あの、一ノ瀬くんに……』
『永夢に渡してくださいッ』
わたしは山のようなプレゼントを抱え、呆然とする。
えっちらおっちらと歩き出す。
穏やかな朝は運び屋の出勤風景と化してしまったのだ──。
時雨先生は顔を顰める。
「だから俺は要らねえって言っただろうが、返してこいよ……」
「だ、だってもうどうにもならないじゃないですかっ……今じゃわたし朝の名物になってて、手伝いに来てくれる人まで……」
時雨先生が立ち上がった。
「今すぐ全部突っ返してくる」
「ちょっ、ちょっとおお!待ってください待ってください!」
わたしは時雨先生をなんとか宥め賺す。
「……じゃあいい、好きにしろ……」
時雨先生はそこで椅子に座り直し、わたしを鋭く見据えた。
「でもな、その女たちの目的はお前じゃねえ……」
「わ、分かってますよ、そんなこと」
「……今はプレゼントを渡してくれる便利なマネージャー扱いだろうけど……そのうち気がつく、冴舞学園と距離の近い唯一の女だって……そんな丸木戸に対してどういう思いを持つか……」
「こっ……怖いこと言わないでくださいよ……え、わたしそんな不味いことしちゃったんですか!?」
「…………」
「なんか言ってくださいよお!」
わたしの叫びは保健室に虚しく響いた。