第16章 犬馬の心
「久しぶりじゃん、サヘル……」
時雨先生が保健室に入ってきたサヘルくんの方を見る。
わたしも体を向ける。
「ほんとですね、久しぶりに会えて嬉し、って言うのは保健室ですしちょっとアレですかねっ?今日はどうした……」
サヘルくんの目元には濃いクマが出来ていた。
心做しか立ち姿もふらふらしている。
「もしかして、寝不足?」
サヘルくんはハッとした顔になり、目線を泳がせる。
「えっ、あ!あの……っ、ごめん、なさい……」
時雨先生がこちらを不審げに見る。
「……は?寝不足?」
サヘルくんの肩が跳ねる。
「す、すみませんごめんなさいッ!」
あまりの謝りっぷりにわたしは口を挟む。
「ちょっと、時雨先生……確かに寝不足は身体が心配ですけど。サヘルくんにも色々都合があるんですから」
時雨先生はへーへー、とやる気なさそうに言う。
「気にしないでくださいね」
笑いかけるとサヘルくんは気まずそうにする。
「い、いや、あのっ……」
「え?」
「はい……」
しゅんと項垂れる姿にわたしは首を傾げた。