第3章 口は災いの元
わたしは、ちらりと時雨先生を見る。
時雨先生は指先でコツコツと机を叩いている。
上の空の様子で、眉根に皺を寄せ、ずーっとコツコツコツコツ。
机の下では、足先がパタパタ。
わたしはふうっと息をついた。
「タバコ、切れたんですか?すぐ戻るなら席外してもいいですよ」
「……え」
「いや、ずーっと机こんこんしてるから……タバコが切れてイライラしてるのかなあって」
時雨先生は目を見開いた。
「バッ、違っ……!くも、ねえのかな……うん、わりいな、吸わせてもらう……」
「はーい」
時雨先生がわたしに悪いな、なんて言うなんて明日は雨かな。
そんなことを思いながら、時雨先生を眺める。
時雨先生はおもむろに煙草を取り出し、一本口に咥え、ライターをあてがった。
ぎょっとした。
思わず立ち上がり、声を上げる。
「ちょッ、ここで吸っていいとは言ってないんですけど!」
時雨先生は心ここに在らず、とばかりに煙草をライターで炙り続けている。
「え!?え!?ちょっ、何やってんですかー!」
時雨先生はここでようやく異常事態に気がついたのか、ほとんど未使用の煙草を灰皿に押し付けた。
そのままゆっくりと顔を上げる。
怪訝な顔で固まっているわたしをじっと見つめた。
「……なあ、丸木戸」
「は、はい?」
時雨先生が何かを言いかけた時、保健室のドアが開いた。