第11章 鞍上人無く鞍下馬無し
「……あんなの着る場所ないんですけど」
「え、保健室で」
「嫌ですよ!」
「え……」
サヘルくんが悲しげな顔をし、肩を落とす。
「あの……?」
「……ぼく、ずっとアルバイト頑張って、買ったんです……」
「そ、それで最近放課後来てなかったんですね……」
あまりの熱意に顔を引き攣らせていると、サヘルくんは涙ぐんだ瞳を上げた。
「紗都せんせいに、似合うと思ったんですっ……」
「うッ!」
わたしはサヘルくんの眩しい視線に仰け反った。
「紗都せんせいに着て欲しいんですっ」
「うっ……!う、うっ、でもっ……」
「紗都せんせい……」
弱々しく名を呼ばれ、胸がきゅうっと痛くなる。
わたしは勘弁し、小さく呟いた。
「ちょっと、だけなら……」
「わあっ、ほんとですか!ありがとうございます紗都せんせい!ぼくすっごく嬉しいですっ」
サヘルくんはぱああっと表情を華やがせ、可愛らしく笑っている。
わたしはサヘルくんの態度の急変に呆気に取られた。
にこにこと幸せそうに微笑む姿。
してやられた、そう思ってしまうわたしは恐らく間違っていない……。
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