第7章 七夜
「と、トビさぁぁん……」
「わッ、えッ、センパイ、そ、そんな」
次から次へと胸の内から溢れる“なにか”を飼い慣らすことも出来ず、トビさんを強く抱き締めることで何とか制御させる。かと思ったが、頭を肩にうずめればうずめるほどにその“なにか”は噴火かのように勢いを増して溢れていった。
さっきから心臓が痛いほど鳴いている。身体は熱いし、初めての感覚にどうして良いのかも分からず、目が潤んでいく。
「センパイおかしいッスよ!熱でも……」
バッ、と身体を離して、トビは声を詰まらせた。鎖羅は普段のあどけない表情を崩し、顔を赤く染めて目を潤ませていた。
抱き締められた時は幻術でもかけてしまったか?と思ったが、どうやらそうではないようだ。トビは鎖羅が自分の腕を名残惜しそうに掴んでいるの見てそう確信する。
「トビさん……」
「うおっ」
伸ばされた手が、ひたりと胸に当てられる。鎖羅はドクドクと激しく脈打つ心臓を確認して、さらに顔をほころばせた。
トビさんも、私に触れて、こんなにも───
「一緒、ですね……、こんなにドキドキしてる……」
「セ、センパイ……」
トビの右手が鎖羅の熱い頬を撫で、髪を梳いた。鎖羅は心地よさそうに目を細めた。
どうしようか、このまま食ってしまおうか。
トビはそう思ったが、ようやく自分に心を許したのだから少しばかり純情に応えてやるのも良いだろう────そして仮面の奥で薄く笑った。