第7章 七夜
どうしてだろう。普段ならトビさんはとても未知で怖い人のはずなのに。今はなんだかあたたかい人のように感じる。それはさっきの手の温もりだったり、小さく立てている寝息だったり。顔を隠していても、隠しきれていない人間らしさが私の懐疑的な心を解していった。
初めて私からトビさんに触れた。こんなにもドキドキすることだなんて知らなかった。それをトビさんは平然とやってのける。……ううん、トビさんも、ドキドキしてたのかな………
「……………鎖羅先輩?」
「うわあぁっ!起きてたんですか?!えっ、えっいつから?!」
「腕叩いたあたりッスかね……」
「ごめんなさいッ!!そ、そんな好き勝手しようだなんて思ってなかったんです!!嫌な気持ちにさせてしまってたら……!」
一気に壁の隅に後ずさった私に、トビさんはなにも言わずに立ち上がって近寄り、抱きしめる。広い背中に手を回すと、やはりその腕はあたたかかった。
「イヤじゃないッスよ。センパイからも触ってくれて嬉しいッスよ、ボク。」
「う、あ、あ………」
聞こえてしまっているんじゃないかってくらい心臓は高鳴っている。今までこんなにもトビさんにドキドキしたのは初めてだった。それは父の姿と重ね合わせたからかもしれないし、その身体に触れて、あたたかさを感じたからかもしれない。なんにせよ、抱いたことのない感情に鎖羅はぐるぐると目を回しそうになっていた。