第7章 七夜
「笠、ありがとうございました」
「いいのよ、こちらこそ子供達と遊んでもらっちゃったしね!」
多くの子どもたちに惜しまれながらも、孤児院を後にする。さて、どうしたものかと鎖羅は人が少ない通りを進んでいく。市街地の喧騒を耳にしながら、腕に残る細い肩の感触を確かめる。一生、この弱さを忘れることはないだろう。
「あ!いたいた!」
「トビさん!」
元気な声と共にトビさんは手を振りながら走ってくる。
「今からご飯用意してくれる宿見つけたんで、今日は泊まっちゃいましょ!」
任務のための日数は二日与えられている。出発は早まってしまうが、アジトの管理だけなので泊まっても間に合うだろう。
繁華街に戻り、鎖羅はトビの後ろを着いていく。既に正午を過ぎているのに、未だ収まらない人の波に押されて足がよろけ、トビの背中にぶつかってしまう。
「あっ!ごめんなさい!」
ぎうぎう押されながら何とか離れようと試みるが、下手に動いてはまたはぐれそうだ。人の動きが静まる瞬間を狙って、トビは一歩引いた。そして鎖羅の肩を抱き寄せる。
「足元気をつけてくださいね」
爽やかな森と水の匂いが鼻腔をくすぐる。トビさんは時間がある時はいつも外に出ているから、何だか暖かい匂いがするんだろうな───そう思うと、鎖羅の胸が小さく締め付けられるような感覚になる。左肩に添えられた手はとてもあたたかい。何だか得体の知れないトビさんだけど、ヒトらしさを垣間見たような気がして嬉しい……そう思った。