第7章 七夜
「オレも、さっきの姉ちゃんみたいな強い水遁の術を使いたい!それで……それでいっぱい敵を殺したい……ッ!」
頬を赤くして力強く言ったその子を抱き寄せる。こんなにも小さい身体にその意志をたたえているかと思うと、涙が滲んできた。
「……戦う必要のない世界を、お姉ちゃんが作ってあげる。キミも戦場に出る必要のない世界を………」
小さい手が背中に回された。微かに震えるその肩を力強く、消えてしまわないように抱きしめる。
「……約束だよ」
ぽそりと耳元で呟かれた。その弱々しい声に、幼い頃の自分を重ね合わせる。助けのない事がどれだけ不安なのかはよく分かっていた。だから私が助けるのだ。こんな小さい子供が私みたいに戦いに明け暮れることのないように。
「そうね、ちょうど彼が1歳の頃。この里近隣で大きい戦争があってね。もちろん里の大人達は全員駆り出されたわ。……そうして、残されたのがあの子たち。」
なおしてもらった笠を受け取って、縁側で施設長に子供たちの事を聞いた。
戦後、この小さい里は多くの大人を失って、同時に多くの子供が孤児となった。そんな子供達を養うためのお金は里にはなく、その時他国から政略結婚で里に嫁いできたお嫁さんが、故郷の莫大な資金援助を利用してこの施設を建てたらしい。そして妃の名を譲って、今は施設長として働いている。
「恥ずかしい話だけど、私は戦争の悲惨さを何も知らなかった。だからこの里に来た時に、道を歩けば服を引っ張って物乞いをする子供達がとても可哀想に思えて、なにかしてやれることは無いかって焦燥感にかられたわ。」
「……………」
胸が痛んだ。元気に庭を走り回っているあの子達も、自分と同じ親を失った子供なのだ。私の時と違って周りに大人がいて、助けの手を差し伸べることが出来るのに、私は何もしてやれないことがとても悔しい。
「こうして祭りの日は里を解放したりして、だいぶ人は来た方だけど、やっぱり子供の引き取り手は少ないわ。……幼い頃に産みの親の愛情を与えてあげられないのが、私達はとても悲しくって」
言葉を詰まらせて涙を流し始めた施設長の手を握る。こんなに賑やかな里でも、一歩道を外れてみれば暗い現実が隠されていた。そしてかつての施設長と同じく、鎖羅は焦燥感にかられるのであった。