第7章 七夜
「トビさんって、平和ってなんだと思いますか?」
「………ボクにはあまり難しいことはわかんないッス!」
濁された、と思ったが、本当に何も考えてないのかもしれない。鎖羅はそう思いながら空を見上げた。
平和、鎖羅はよく分かっていた。
それは朝日が登る様子を窓から見ることだったり、本殿に充満する白檀の香りだったり、父の大きな手に撫でられること、稽古をつけてもらうこと、里の住民たちから頼ってもらうこと、挙げられればキリがない。
失った今だからこそわかる。
この世は憎しみに溢れ、痛みの連鎖で成り立っている。
それを断ち切るために、世界に痛みを与えるとリーダーは言った。
でもそれが本当に正しい正義であるのか、まだ私には分からない。
一体夢のようなこの世界で、私は何をすべきなのか──────
「鎖羅先輩、そんなに考えこんじゃ熱出ちゃいますよ」
「あっ、……は、はい」
トビは鎖羅の頬を撫でた。
布の感触に目を細めるが、逞しく男らしい体つきに抱きしめられていることを再確認すると、撫でられた頬はみるみるうちに赤く染まる。