第1章 薄暮
暫く進んでいくと、突然ぽっかりと穴が空いたような小さい広場にたどり着いた。
石造りの小ぢんまりとした神殿に、母が震える手をかざすと地響きと共に地下へと続く階段が現れる。
緑のコケが生えた階段を滑らないように下っていくと、朽ちかけた何も無い空間に、封印札が貼られた祠が鎮座している。
「あの札は……チャクラの性質を持たないあなたでも解けるようになっています」
母に促され、昔教わった解呪の印を思い出し組んでみる。最後の一手を組み終えれば、祠の扉が勢いよく開いた。
中には薄く埃を被った巻物が入っている。初めて目にした……これが禁術習得のための書だ。
「ッうあ゛あ!!」
「?!」
突如母が心臓を押えて倒れ込む。
それと同時に地上の地響きが伝わり、パラパラと岩の欠片が落ちてくる。
「まさかそんな……!結界がッ、破られました……!」
ハリのあった肌は尋常な速さで皺を被っていく。
「お母さん!お母さんッ!!」
「鎖羅、……その、禁術を……会得……」
ゆっくり寝かせ、母の口元に耳を向ける。一言も聞き逃さないように。
流れる涙が母の首に落ちた。お母さんは震える手で頭を撫でる。
「貴女が……チャクラの性質を持たなかったのも……私の呪いの……せいなのかも知れません……
鎖羅……せめてもの形見として………私のチャクラと、水の性質を託します……」
「呪い……?か、形見って、やだ、やだよお母さん、死なないでよ!!」
「死体を……私を食べなさい、鎖羅」
弱々しい腕が私を抱きしめる。涙はとめどなく溢れて、抱きしめ返せば身体は酷く細くなっていた。
「うっ、うっうう、おかあさああん………」
「泣かないで……あなたは…………一族の…希望……………あいしてるわ………」
パタリ、と腕が落ちる。
「おかあさん、おかあさん……?」
目は半開きのまま動くことは無い。
死んだ、死んだんだ。
お母さんが死んだ。お父さんも、お母さんも、もういない。