第6章 六夜
「……鎖羅先輩」
トビさんの声がすぐ後ろから聞こえる。
……そういえば、なんで朝でもないのに部屋に来たんだろう?線香を消すだけなら起こす必要もなかったはず。
「は、はい?」
「ボクがなんで来たか分かります?」
「……今考えてたんですけど、わからな」
ボフン、と布団が波打った。
布の感触が手首を纏う。濃紺の暗闇の中で、黒い瞳が仮面の穴から見えたような気がした。
「え、っ?そ、その、トビさん」
「男が女の寝室に行くって、夜這いしかないと思うんスけど」
僅かに露出された肌が頬に当てられる。
ひやっとしているが、次第に暖かみを増して、このバケモノのような格好をした男でも人間なのだと思い知らされる。
「え?!いや、ちょっと!!」
「シッ、他のお客さんが起きちゃいますよ」
そう言うと、素直に手で口を塞いだ。
しかしその数秒後にいやいやと、抵抗し始める。
「よ、よばい?よばいってなんですか?寝首を搔くのとはまた違いますか?」
幻術で見た図書館の景色を思い出す。
学んだことといえば一族の歴史だけなのだろう。