第5章 五夜
「……最近、容態も宜しくないでしょう」
「………」
「アナタ程の忍がどうして弟一人残して里を去ったのかは私には分かりませんけどね、生憎兄弟は居ないもので」
イタチは衿にかけた左手を握る。
「ただの……、可能性だ」
「本当にそうでしょうか?アナタ、弟に自分を殺させようだなんて、思っていませんかね?」
語尾上がりの口調はどこか嫌らしい。
イタチは眉をひそめて鬼鮫を勘ぐる。何年も一緒にいた相棒だ、油断ならない。
「イタチさん、こんな仕事してると段々と罪の意識って薄れてくでしょう?私は仲間を殺した身ですが、罪なんて……とうの昔に」
「鬼鮫、何が言いたい」
イタチの声色は更に凄みを増す。
鬼鮫は一拍おいてクツクツと笑いだした。
思い出す、コンビ組みたての頃を。
「任務、戦場の流れの上、もしくは自分の意思………、どんな理由であっても、同じ郷の者を殺すなどという行為をした忍は罪悪感に浸って、ましてや誰かに裁いてもらおうだなんて考えることすら許されないんですよ。」
「お前には………関係の無いことだ」
漆黒の瞳は写輪眼に形態を変える。
鬼鮫はフイ、と頭を降った。
「おやおや、珍しい。アナタがそこまで感情を露わにするとは。
……アナタも存外人間らしい。今から言うことは同じ仲間殺しとしてでは無く、アナタの相棒としての言葉です。」
「………」
イタチは目を伏せ、漆黒の瞳で鬼鮫を見据えた。
一束の髪から水滴が垂れる。