第5章 五夜
「お前には……そう見えるか?」
イタチの目元からどろりと雨が流れた。
鬼鮫は絶えず涙を流す秋雨の音を聴いている。
沈黙は続いた。
すると突如、雨は段々と小降りになり、雲が割れていく。
「雨が……止んだな」
イタチは振り返り、庇の鬼鮫の方へと歩いていく。パチャリ、パチャリ。水たまりが跳ねる。
「イタチさん、私に……いや、私達に何か隠してませんか?それも随分と前から…」
光に当てられた体は足元の水面にゆらゆらと反射する。赤雲は揺れている。
「アナタは私が何も知らないと思っているのでしょうが……私は知っていますよ、イタチさん」
静かではあるが、どこか穏やかな声色にイタチは顔を上げた。 鬼鮫は変わらぬ表情でイタチを見つめる。
「アナタが私に要件も言わずに何処かへ行ってしまうのなんてありませんでしたからねぇ」
イタチは鬼鮫を先に帰らせてサスケに会いに向かった日のことを思い出していた。
鬼鮫は鮫肌を岩の壁に立てかける。庇の影は二人の足元を真一文字に分断していた。