第5章 五夜
窓枠に手をかけて部屋の暗闇に目を凝らす。
風が吹き込むと、焚いている線香の香りと湿った雨上がり特有の匂いが混ざって鼻腔をつく。
白檀だろうか、高貴な香りは神職につくものに好まれていたようだ。
白い陶器で出来ている武器は無防備にも机の上に放り出されている。
「……これ、どうやって使うんですかねぇ」
手袋越しにも冷たさを感じるそれは手に馴染むような重みを感じる。引き金もないので手にチャクラを込めてみると、ピリッとした衝撃が手のひらに広がって反射で手を離した。
「いッつ……!」
畳の上にゴトリと落ちる。
寝ている鎖羅を見て起きていないのを確認し、部屋に足を踏み入れ、窓を閉める。
気持ちよさそうに寝息を立てていた。畳の擦れる音すらも聞こえていない。
「だめッすねー先輩、そんなんで暁やってけるんすか?」
横たわっている肩を引いて仰向けに寝させる。
顔の横に手をついて覆いかぶさり、右目を写輪眼に変化させた。
手首を布団に縫い付けると、うっすらと目を開けた。
「ん……?」
「おはようございます〜。ま、すぐおやすみなんですけどね」
鎖羅の瞳に真紅の写輪眼が映し出された。
ビクンと身体が揺れると、鎖羅の瞳孔が開き、目つきは虚ろになる。
手首を離して起き上がり、壁に背を預ける。
鎖羅はゆっくりとした挙動で布団の上に胡座をかいた。
すうっと、息を吸う。薄く開かれた口は微かに動いた。
「……邯鄲の夢、与」
焚いている線香の煙が一気に濃くなった。
それは瞬く間に部屋に充満し、視界を霞ませる。
トビはそれに動じることも無く、仮面を少し浮かせて肺いっぱいに吸い込んだ。
すると急激に眠気に襲われる。そのまま幻術に身を委ね、目を閉じて倒れ込んだ。