第1章 薄暮
「鎖羅様!鎖羅様!」
障子越しに名前を叫ぶ声が聞こえる。
飛び起きて、夢でない事を確認すると急いで忍装束に着替えてクナイ等の装備品を身につける。
「ウズメ!なに?!」
「里長様は任務先にて敵襲に遭い、里にて治療にあたっておりますが絶望的との事……!賊は次期に里に攻めてきます!当主様の元へ!」
「お、おとう、さん」
体が奈落に落ちていく様な絶望に打ちひしがれる。おばさんの夢の予知は正確だった。あの時追いかければよかった。まだ間に合ったかもしれなのに……
廊下にへたり込んで、自分の判断力の無さを嘆く。安心するあの大きい手を思い出すと、次第に視界はぼやけていった。
「鎖羅様!!」
パシン、と乾いた音が響く。
ジンジンと刺すような痛みに、ウズメを見上げると、お母さんに似たキッとした目付きで私を見下ろしていた。
「貴女には!!次期当主として背負わなければならない命がある!受け継がなければならない宝物がある!!たとえそれが肉親の死であろうとも!乗り越えていかなければならないのです!!」
ウズメの叫びに思考が晴れた。
涙を拭って深呼吸をする。
「……行こう」
「!…はいッ」
ウズメと共に本殿へと駆けていく。
戦火はすぐそこまで迫っていた。