第4章 白昼夢
「鎖羅様、もう今日はこれ以上はやめましょう、お体を壊されてしまっては」
「ウズメ!!!続けて!!」
ポタ、と土に鼻血が垂れる。手で拭って心配そうに見つめるウズメを睨みつけた。
2人が修行している中庭に面する廊下で、里長はそれを眺めていた。月光降り注ぐ中、スメラギが口を開く。
「……10歳にして里一番の体術を身につけておいでです。里の親たちは御息女様の身体の傷を見て子供たちにあれを目指しなさいと教えているようですよ」
「たとえ忍術も幻術も使えなかったとしても、忍である前に、僕の娘だ。……自慢の娘だよ」
鎖羅の拳がウズメの鼻先で止まった。これで何回目の忍組手かは既に分からない。
フラフラした身体が倒れていく。地面に頭がつく前に里長は鎖羅を抱きかかえた。
「里長様、鎖羅様はもう私からの教えを受ける必要はありません!」
「鎖羅の気持ちを優先させてくれ。」
「ッ……お言葉ですが!お体を壊される修行を続けているのは非効率的ではないかと!!」
「頼む……ウズメ。」
じっと見据える真っ直ぐな目に、ウズメは険しい顔をすると背を向けて去っていく。傷つくことは致し方ない。手加減してしまっては鎖羅様の努力に失礼になる。だからといって、ここまで苦しんで欲しい訳では無いのだ。
2年後、鎖羅は血継限界の1つ目、視を開花させる。その翌年13歳の時には2つ目、知を開花させた。この日の夜、スメラギが自らの隊や抜け忍を巻き込んで秘密裏に結成していた傭兵部隊によって里長を殺害、夢見の里は寝静まった頃に一気に敵襲を受け、一夜にして滅ぼされる。