第3章 三夜
「宗教?」
そう尋ねたサソリさんは台所にお湯を注ぎに行く。
「私の一族の開祖が現人神として崇められてます。里の民は全員信仰してたんですが……今となっては私だけですね」
「ほう……興味深いな。過去について詮索はしないと言ったが怪しいジャシン教よりかは興味がある」
「ハァ?!サソリちゃんよぉ……怪しいってどういう事だよ!!」
「お前以外の信者を見たことがないんだよ、うるさいから風呂入れ風呂」
サソリさんはひらひらと手を振って飛段さんを払い除ける。ハァーこれだから無神論者は、とぶつくさ言いながら飛段さんは浴室へと向かった。
「正直お前の出身の里の名前は聞いたことすら無かったんだが」
「夢見の里、ですね。里の住民全員が一族の血を引いてます」
小さい頃、歴史書で得た知識を思い出せる限りサソリさんに話していく。私は信仰する対象が決まっていたのが当たり前だったので、砂隠れの里などの他里はそれが自由だと知ってとても驚いた。サソリさんは神の存在は信じていないらしいが、現人神についてはとても興味を示している。
「人って簡単に死んじまうんだ、オレもよく分かるが……。人間として死んでも忘れられず、それでいて神として絶対的な存在に格上げされるのはある種の永遠を感じさせて、美しい」
作り物ではない赤いまつ毛が金色の日光を受け止める。
「どこまで改造は終わったんですか?」
「うっかり死んじまわねェ様に少しずつやるんだよ、だからまだ指先だけだな。まあ暫く自分を使うような戦闘もないだろうし、何年かかるか分からんが全身やるつもりだよ」
大人びた目つきが湯のみ越しにこちらを射抜くように見た。人傀儡の作り方は知らないが、自分を改造するという行為は聞くだけでも恐怖を与える。芸術家というものは、ひとつも恐れず狂人になれる者のことを指すのだと感じた。