第21章 二十一朝
鎖羅は何も返せずにいた。心に巣食ってしまった愛が憎しみに変わってしまう前に、もうこの場から逃げ出したかった。しかし、今までの思い出はそうはさせてくれない。
そんな複雑な感情を顔に表す鎖羅を見て、オビトは少し言葉を早める。
「だが鎖羅、お前はどれだけ突き放されようとも、どんな苦しみが襲ってこようとも、それでもオレのことを愛していた。本当は憎むはずなのに、憎まずに……その振る舞いがオレを戸惑わせたんだ。どうすればいいか分からなかった。
その結果、オレはお前の気持ちから逃げてしまった。」
オビトは鎖羅との距離を縮める。
鎖羅は多少たじろいで体を強ばらせた。
「オビト、さん」
「でも、やっと道が見えた。戦争は負けてしまったが、この世界でひとつの光明を見つけることが出来た。
伝えるまで時間がかかってしまったが……オレはどうしても寄り道が多くてな。鎖羅とじゃなきゃ真っ直ぐ道を歩むことさえ出来ないんだって気づいたよ。」
オビトは口角を緩め、手を差し伸べた。
前までは誰かに引いてもらっていたその手を。
そして今度は自分が引く側になろうとしていた。
今度こそ、自分の想いをまっすぐに伝えるために。
彼は覚悟を決めたのだ。
暖かくて優しい手。かつて自分から離れていったその手に鎖羅は恐る恐る指を伸ばした。