第21章 二十一朝
「オビト!!」
錫杖を立ててオビトは音もなく立ち上がる。
未だ半身に黒ゼツは張り付いている様だが、意識清明、ただその表情には鎖羅を前にしてか、僅かに緊張が含まれている。
「……大丈夫だ。オレがナルトを助けてやる。」
オビトはナルトの胸に五指の先をひたりとつけると、軽い息遣いの後に一気に尾獣チャクラを流し込んだ。光に透かした炎のようなその生命力はみるみるうちにナルトに注ぎ込まれ、頬がふっくらと血色を帯びていく。
「っ……う……」
全てチャクラを流し終えると、オビトの息遣いは酷く荒くなる。サクラはナルトの瞼を開いて瞳孔を確認し、心臓の脈動の再開を確認すると立ち上がって膝を着いているオビトへ向かい合った。
「アナタはこの戦争までの間にも、たくさんの私たちの仲間を殺してきた。だから本当はこんなこと言うべきじゃないかもしれないけど……ナルトを救ってくれてありがとう。」
そう言ったサクラの表情には、敵であるオビトに礼を述べる難しさとナルトの命が助かったという安堵が綯い交ぜになっている。この独立した次元である神威空間であるからこそ言えたことばなのかもしれない。
「ああ……。じきにナルトも目が覚める。だが神威空間とはいえ、お前たちは戦場に戻ることを急いだ方がいいだろう。」
サクラは頷き、ナルトの元へ戻る。
そのやりとりのときでも、お前たちはという言葉の中に自分が加えられていなかった意味をオビトに呼び止められた鎖羅は考えていた。考え、困惑していた。
ナルトとサクラが戦場へ飲み込まれていく。
残された者達の沈黙は酷く冷たく、お互いの息遣いさえ聞こえないほどに2人は自らの思考に沈んでいた。